超古代史論の前提(2)文明はなぜ消えたか

(2013年筆)

 滅亡した超古代文明として誰もが知っているのが、アトランティスとム-の話ではないでしょうか。
 アトランティスは、プラトンが記述した大陸と呼べるほどの大きさを持った島とそこに繁栄した王国のことであり、強大な軍事力を背景に世界の覇権を握ろうとしたものの、ゼウスの怒りに触れて約1万2000年前海中に沈んだとされています。19世紀末の米の政治家ドネリーが「アトランティス-大洪水前の世界」を発表したことにより、謎の大陸伝説として一大ブームとなって以来、世界中でさまざまに取り上げられるに至った話です。
 一方、ジェームズ・チャーチワードによると、ム-大陸は今から約1万2000年前に太平洋にあったとされる失われた大陸とその文明をさし、イースター島やポリネシアの島々がその名残であるとする説もあるようです。しかし、決定的な証拠となる遺跡遺物などは存在せず、海底調査でも巨大大陸が海没したことを示唆するいかなる証拠も見つかっていないといわれています。

 二つの話とも果たして本当だったのかどうかは知る由もありませんが、世界中の人々に大きな影響を与えたことは確かで、また、時代とともにさまざまな修飾が施されてきたようです。つまり、これらの文明は現代文明をしのぐ卓越した技術によって繁栄したとか、それらの高度な文明を生み出す技術力が宇宙人によってもたらされたのではないかと考える研究者もいるようです。
 しかし、大西洋にあったというアトランティスに関しては、かつて広大な陸地が存在し沈没した可能性がないという海洋底調査の結果だけでなく、プレートテクトニクス理論でも、ヨーロッパ・アメリカ・アフリカ大陸間に別の大陸が入るべき余地はないとされています。また、「超金属オリハルコン」はアトランティス伝説の中ではお馴染みですが、プラトンの著作にはこれが「超金属」であることをうかがわせる記述はどこにも見当たらないこと、さらにクレタ島のミノア文明が火山の爆発で崩壊したことがアトランティス伝説を生んだという説も、年代のズレなどから信憑性に乏しいとされております。
 また、今から140年ほど前、仏の一神父がマヤの占星術書を独自に"解読"したのがキッカケとなったム-大陸も、その時点では太平洋ではなく大西洋にあるアトランティス大陸の別名だとされていたというのです。それを太平洋に持ってきて現在知られている「ムー大陸」としてまとめたのがジェームズ・チャーチワードだったわけですが、彼が自説の最大の根拠としているインド駐留時の粘土板の存在がまったく確認されていないこと、さらに後にマヤ文字の解読研究が進んだ時点で先の仏の神父の解読は完全な間違いであったことも判明しているそうです。
 同様なトンデモはレムリア大陸に関しても横行していますが、もともと大陸移動説以前のレム-ル類(キツネザルの一種)の分布を説明すべき概念が独り歩きしたものであり、プレートテクトニクス理論登場後はまったくの見当違いであることが判明しております。

 では、本当の所はどうだったのかをYES/NOで視てみますと、圧倒的にNO=アトランティスやム-は実在しなかったという結果が出ております。ただ、ハンコックのいう古代における高度文明社会や、浅川嘉富氏のいわゆる謎の先史文明については何ともいえない部分があり、これらについては別項でまた検討すべき課題かと思われます。
それよりも、問題はもし超古代文明が存在したとしたら何故それは痕跡も残さず消えてしまったのか、考古学的な遺跡・遺物の1つや2つくらいは発見されてもよいのではないかということです。現に猿人・原人・旧人の痕跡や現生人類の遺跡などが発見されているのに、それらを上回る高度な文明の痕跡だけがないのはいささか不合理な気がします。あるいは、クレモとトンプソンがいうように、フリーメーソンが進化論とは違う証拠を隠ぺい破壊してきたとでもいうのでしょうか。そこで、この点についてハンコックや浅川氏がどのように考えているのかということを手掛かりに、本稿の核心に入っていきたいと思います。

 両者の主張に共通するのは地球規模の洪水というカタストロフィの発生であり、とくに浅川氏は

「その滅亡の原因は、聖書をはじめ世界中の伝承、伝説に残された地球規模の大洪水の発生であった。地球に接近した巨大彗星から飛来した膨大な水は、地球の海面をおよそ 2000メートルほど上昇させ、陸地をのみ込み、人間をはじめとする多くの生物を絶滅寸前に追い込んだのだ。まさに『ノアの洪水』の発生である」

と述べています。氏が単にアトランティスやム-伝説に影響されたのではなく、テキサス州から発見された「指の化石」の成因や同州から発見された「鉄製ハンマー」の成分分析結果からこのような仮説を立てている姿勢は高く評価されるべきだと思います。

 一方、ハンコックは地球規模の洪水のほかに、火山・地震・氷河期の寒冷化等をあげており、そのメカニズムとして歳差運動による地軸の変化も取り上げていますが、最大の問題は地殻移動説だとしています。

「極地圏においては氷が継続的に堆積していくが、極地の周りに均等に堆積するわけではない。地球は回転しており、不均等に堆積した氷に影響された遠心力の運動が起こり、それが、地球の固い地殻に伝達される。このような形で作りだされ、継続的に増大する遠心力運動は、ある時点に達すると地球の内部はそのままで、地殻だけを動かすことになる」

結果として、30°程度のポールシフトが急激に起こったのと同様な天変地異が起こり、大陸はスリップし環境は激変してしまうというわけです。こうして、アインシュタインに絶賛されながらも不遇な生涯を送ったハプグッド教授に思いをはせながら、彼は南極大陸の下に触手を伸ばすのです。

 では、高度な超古代文明の痕跡を消し去った地球規模のカタストロフィとは何だったのか、いよいよYES/NOの結果をご報告する段階になったと思われます。
 現象的にYESだったのは、「洪水・地震・火山」であり、NOだったのが「寒冷化」と出ました。まぁ、氷河期というのが凄まじいことも分かりますが、現代文明の下でも各種のエネルギーを用いて極寒の地でも人類は文明を営んでいるわけですから、緩慢に来る氷河期には何とか耐えられたと考えるのが妥当でしょう。それと比べたら、洪水・地震・火山はかなり切迫した危機であり、東日本大震災時の津波を思い出しても甚大な被害を引きおこし、文明の痕跡を消し去ると考えられます。
 次に、カタストロフィのメカニズムはというと、「天体の衝突」(浅川氏)と「大陸のスリップ」(ハンコック)はNO、YESと出たのは「地球の膨張」というものでした。聞き慣れない言葉ですが、地球が膨張することによって地殻が拡張し、大陸が分裂し移動したとする地球膨張説が19世紀末に提唱され、大陸移動説を提唱したヴェゲナーもこの説を敷衍していたとされます。しかし、近年ではプレートテクトニクス理論の台頭とともに影響力を失った過去の理論とされているようです。
 日本では岩石学の午来正夫氏、世界的には豪のウォーレン・ケアリーなど、半世紀ほど前に注目を浴びながらも表舞台から消えていった地球膨張説・・・。しかし、地道に膨張論の研究を続ける科学者らがおり、地球が膨張しているとする証拠は?地球の成長と自転スピードとの関係は?なぜ、日食直後の地震が予知されたのか?ニュートリノと地球膨張の関係とは?彼らはさまざまな角度から、地球膨張の可能性について検証しており、あながち過去の理論として葬ることはできないのが現状のようです。

「私はこの地球の小さな膨張-地球の表層の形成-が,地殻の隆起と海水準の上昇を通じて,さまざまな地質現象を支配している,と考えている。-(中略)-地殻の隆起とその沈水(つまり海水準上昇)は、膨張する地球の2側面である」
「私が考えていることは、現在の地球科学界の流行学説(プレート説)とは、大きくちがっている。私は、地球上の地質現象を、おもに地球物理学的観測結果をもとにして解釈する、この流行説に賛成できない。地質現象の解釈は、地球を構成する岩石が語ることばを、根拠にすべきであると私は思っている」
「現在の地質学の混乱のもとは、いまもって、地球の誕生とその生いたちについて、定説がないことだろう。チャールズ・ダーウィンは、『種の起源』(1859年)によって、生物進化論をうち立て、生物学の基礎をきずいた。これを見ならいながら、地球とはこのようなものだろう、という私なりの習作である」

という星野通平氏の言をきくと、本理論がトンデモとは全く異なる地道な作業の結果であることが分かるのです。

 ところで、星野氏によれば、地球の表層を構成したエンスタタイト隕石からはCO2に富む大気と水・花崗岩ができ、始生代末(25億年前)までには海水の絶対量も決まり、原生代以降海面を上昇させるほどの地球内部からの水の添加はまったくなかったということです。にもかかわらず、海水準は白亜紀中期(約1億年前)と比べると4000m、中新世末(約530万年前)からは2000m、鮮新世末(約170万年前)と比べても1000mは上昇しているというのです。
 マグマの活動による地球膨張=海洋底の底上げがこれらの原因であり、始生代末期と比べると地球は50km以上も膨れているというのが星野氏の主張ですが、YES/NOで視ると、この海面上昇は毎年々々少しずつ上昇していったというよりは、数千年・数万年あるいは数十万年に一回、急激な地殻変動を伴いながら起こったというのが正確なようです。
 さらに、星野氏は大陸移動はなかったとしていますが、この点もYES/NOで視ると大陸移動はあったという結果が出ており、地球膨張論者の中でもかつてのヒーロー(今は、マントル対流説に敗れた)、ウォーレン・ケアリーの説に近くなっていくようです。ケアリーによれば、中生代初めのころと比べ地球の半径は1.5倍以上も大きくなっており、この膨張によって地殻が拡張し大陸が分裂・移動したというのです。
 こうしてみると、地球膨張論に基づくカタストロフィの様相はかなり激烈なものがあり、「洪水・地震・火山」それぞれのインパクトは、特に第4紀以降想像をはるかに越えるものがあったのではないでしょうか。というのも、星野氏によるとこの時期は、ヒマラヤをはじめとする地球上のすべての山脈・高原の大隆起時代でもあったのだといわれるからです。

【参考書籍】
Wikipedia
松岡正剛の千夜千冊
・G.ハンコック「神々の指紋」上下(翔泳社)
浅川嘉富「謎の先史文明」?人類は恐竜と共存した? 第一回-五回
 (東京理科大学同窓会機関紙「理窓」 平成17年1・4・7・10月号、平成18年1・4月号)
・クレモ・トンプソン「人類の隠された起源」(翔泳社)
・本城達也「超常現象の謎解き
・星野通平「膨らむ地球」(「膨らむ地球」刊行会)
星野通平教授の研究室
・リレスフォード「遺伝子で探る人類史」(講談社ブルーバックス)
浅見宗平「ふしぎな記録」〈第3・4巻〉星雲社
渡辺長義「探求 幻の富士古文献?遙かなる高天原を求めて」今日の話題社
竹田日恵「『竹内文書』世界史の超革命」徳間書店
正氣久嗣「正しい霊とよこしまな霊」徳間書店