新ABCD包囲網

(2010年筆)

 「断絶の行方」ではさまざまな分野の具体的問題について、マスメディアや政府から流されている膨大な情報を検証してきました。その中でまず浮かび上がってきたのは、現在世相を揺るがせている地球温暖化の原因はその5/6が自然変動でありCОによる効果は1/6にしか過ぎないこと、CОを排泄しないという原発や自然エネルギーも実際は大量の石油に依存していることでした。そして欧米ではすでに温暖化から寒冷化へ論調が変わりつつある現実を踏まえ、食糧や資源・エネルギー問題にメスを入れてみたわけです。そうした中で中国をはじめとする新興国が登場してきた現在の世界では、資源・エネルギーが逼迫していること、さらに食糧も含めて考える時一国の社会全体を制約するのは石油の供給にあるということなどが判明してきました。しかし、日本では相変わらずCО削減論がかまびすしく喧伝され、さらなる省力化や25%削減論などが唱えられております。そこで、1997年に締結された「京都議定書」の内容を最後にみていきたいと思います。

 1992年に採択された「国連気候変動枠組条約」は、温室効果ガス濃度を安定化させることを究極の目標として、世界全体で取り組んでいくことに合意したものでした。そして同条約に基づき1995年から毎年締約国会議(CОP)が開催されることになりましたが、1997年のCОP3で初の各国別削減目標(2008年~2012年の5年間で1990年比、日本6%・米国7%・EU8%など)が示されたわけです。しかし世界全体に占める排出量の割合が大きい米・中・印などが現在に至るまで削減実施に踏み切っていない点など、先進国間と新興各国内での対立が解消されないまま現在に至っています。

表3-23 主要国のCО排出量と実質削減率

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出典:「温暖化論謀略」

 その後の経緯はともかく、「京都議定書」は締結時(1997年)のCО排出量を基準としたものではなく、1990年を「基準年」としたものであり、ここにトリックがあったと武田邦彦氏は主張するのです。表3-23を見ると、日・米・加のようなごく普通の国は1990年に比べてCО排出量が1997年の会議時には増加しており、1990年比で何%削減するかが右欄に示されていますので、1997年当時どのくらい削減せねばならないかが実質削減目標として示されています。そうすると日・米・加はそれぞれ19%・22%・25%という高い数値が目標となりますが、独・英・露は逆に正の数値となり排出量を増やしてよいこととなります。武田氏によれば独露の1990年レベルと比べた1997年当時のCО排出量の減少には、共産圏の崩壊という大きな理由があったとされるのです。つまり1990年当時と比較した両国の状況は、東独時代の非効率で古い生産設備を抱えていた体制が1997年までにかなり改善されたのが統一ドイツ、ソ連崩壊後の不景気が続いていたために排出量が少なかったのがロシアだといわれるのです。英についての言及はありませんが、恐らく1990年代の不景気の影響でやはり1997年の排出量がすでに減少していたのだろうと推測されます。さらにEUについては或内全体で増減をはかる規定があり、仮に京都以降に独・英などの排出量が増加したとしても、スペイン・ポルトガル・ギリシャ・アイルランドといった低排出国と平準化されるため、削減義務が課されないよう巧妙な抜け道が用意されたといわれるのです。そして実質的に削減義務のある日・米・加のうち米・加はそれぞれ批准せず・実施せずとしているので、この会議で削減義務を負ったのは日本だけという結論になります。氏は最後に、「まさに第二次大戦は黄白の戦いであり、それは形を変えて『温暖化』に続いている」と主張しているのです。

 確かに、豊かになった日本人にとって、"海外"は単なる"観光地"か"旅行先"と化していることは否めず、そうした人々の多くは欧米に対するアレルギーなどは持ち合わせていないようです。しかし、一定期間海外に"生活"した人々の経験を聴くと、アングロサクソンと独伊を含むヨーロッパ人は、有色人種については"異質"とみているという話も出てきます。また日本人にとって第二次大戦後の「標準的歴史観」は戦前とは大きく様相を異にしていますが、欧米人にとっては19世紀からの「世界史」は何ら変化していないという人々もいます。これまでに考察してきたように日本は今危機的な状況にあり、それを主体的に認識しないことは新たな「ABCD包囲網」の構築を傍観することになってしまうのではないかと申し上げられます。

参考文献
世界経済のネタ帳
日本生活習慣病予防協会
日本経済新聞2010年10月24日朝刊
ボルマー&ヴァルムート著「健康と食べ物,あっと驚く常識のウソ」(草思社)
田中平三監修「サプリメント・健康食品の『効き目』と『安全性』」(同文書院)
福岡伸一「生物と無生物の間」(講談社現代新書)
赤祖父俊一「正しく知る地球温暖化」(誠文堂新光社)
オープンコンテントの百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
日経電子版2009年11月26日
産経新聞2003年6月22日
【2010年ビルダーバーグ会議・緊急報告】”主役”不在の今年のビルダーバーグ会議。崩壊しつつある”グローバル・ガバナンス”の行方 (1) 2010年6月10日
農林水産省HP
ビジネスのための雑学知ったかぶり「日本の食料自給率は40%
財団法人エネルギー総合高額研究所HP
シフトムHP
近藤邦明「環境問題を考える
永濱・鈴木編「[図解]資源の世界地図」(青春出版社)
武田邦彦「温暖化謀略論」(ビジネス社)