さていよいよ今度は「CIA」ですが、この本を書く前に私がこの組織についてもっていた知識はほとんどなく、せいぜい"ケネディ暗殺事件"についての関与説位のものでした。この事件そのものは有名ですので詳細は省きますが、前節で引用した斎藤悦雄氏はこの件について次にように推測しています。
「ケネディは、対キューバ政策やソ連政策で軍産複合体と関わりつつ渡り合っていた。-(中略)-彼なりに慎重な姿勢をとっていた。ともかく軍産複合体の初期の頃には、アイゼンハワーやケネディのようにまだ政治家が多少は対抗勢力として存在しえた。だが、やがて平和主義者に転じたケネディはCIAの陰謀によって暗殺されたのではないか?」
真相は藪の中ですが、今まで検討してきた軍産官複合体の論理と、その後のR・ケネディ、E・ケネディと続く暗殺やスキャンダルの不審さとを突き合わせると、氏の推測も肯けるのではないかと思われます。また軍産官複合体に刃向う者は、例え大統領でも抹殺されることを強烈にアピールしたのがこれらの事件であると考えると、その後急速にアメリカが軍産官複合国家へ向かっていった経緯も納得できると申し上げられます。
ではCIAと日本との関わりはどうなのか、ここではニューヨーク・タイムズの記者ティム・ワーナが2007年に出版した「Legacy of Ashes, The History of the CIA」から、雁屋哲氏の引用を元にみていきたいと思います。
その第十二章は「We ran it in a different way」となっており、この ran it という語には冷酷さ・非常さ・おごり高ぶった感じがすると氏はいっていますが、ともかく内容的には、
(1) 岸信介と児玉誉士夫は共にCIAにリクルートされたエージェントであった
(2) この二人はCIAの助力により各々首相・暴力団№1となった
(3) またCIAから自民党へは資金が流れていたし岸以外にもリクルートされ支配された議員たちがいた
(4) 元警察庁長官後藤田もそうだったし、1958年には当時の佐藤栄作蔵相に選挙資金が渡った
(5) CIAは1970年~1980年代には有望な人間たち(官僚等・筆者注)を含め全ての政府機関に浸透していた
(6) 1976年のロッキード事件は、CIAにとってはそれまでの工作が暴露される恐れのある危険な事件だった
ことなどが語られています。
これに比べると有馬哲夫氏の「CIAと戦後日本」などは、日ソ交渉に当たった重光葵・海上自衛隊誕生にさいしての野村吉三郎・日本TVの正力(これについては後述)・内閣調査室の創始者緒方竹虎などの背後にうごめいた力を描いただけで、さ程の分量ではありません。またゴードン・トーマス「インテリジェンス闇の戦争」(講談社)に付いては、キャッチコピーだけで充分と思われます。
「湾岸戦争・天安門事件・ソ連崩壊・同時多発テロ、そして、原爆製造まで。暗躍する各国情報機関と情報局員たちの知られざる真実」(インテリジェンスは英MI6等の謀報機関のことを指しているー筆者注)。
より卓抜なのは、日本の安全保障体制というのは警察も情報も含めてアメリカの軍事的な枠組に組み込まれており、その象徴が「エシュロン計画」と呼ばれているものだという点です。この武者小路の言を手がかりに捜してみた結果辿り着いたのが、軍事ジャーナリストで、「エシュロンと情報戦争」(文春新書)の著書もある鍛治俊樹氏でした。氏によると「エシュロン計画」というのはアメリカ国家安全保障局NSAの下で通信傍受を行っている専門機関であり、全世界に張りめぐらした通信傍受網で、電話・FAX・電子メールなどさまざまメディアの盗聴・傍受を行っているとのことです。アメリカを中心に豪・加・ニュージーランドのアングロサククソン諸国が加盟して、お互いが傍受した情報を交換できるようなシステムになっており、もともとは軍事情報のみを対象にして来たのが、冷戦後は民間の情報にも手を出すようになってきたとされています。その理由はNSAやCIAにとっては"脅威"が存在しないことには予算を削られてしまうので、ソ連崩壊後は日本経済の脅威が声高に唱えられたのだということです。1980年代後半は、日米貿易摩擦がピークを迎え日米包括協議が行われていたわけですが、エシュロンは政府間協議を傍受して国家的大型商談にアメリカの圧力をかける契機を提供した他、各国で通貨危機を起こして外国経済を混乱させる基礎的情報をアメリカ政府に流したとされています。
氏によりますと、「スパイ防止法」を持たず専門の情報機関のない日本は、"敵"からみたらフリーパスといってもよい状態であり、政治スパイにせよ産業スパイにせよ、スパイが野放しになっているということです。事は日本の国際競争力にも関わり、大企業の社員が大量に外国にひき抜かれたり見境なく技術移転が進められたりで、どれだけの富が失われたかを考えねばならないとも述べられています。また現在の日本人は全般に"情報"に対するガードが甘く、戦前・戦中派の人たち-これはバブルの頂点のころ一斉に第一戦を退いた-のような警戒心を完全に失っている点が最も危惧されるとも付け加えられています。
【参考文献】
「近代日本総合年表」第一版(岩波書店)
武者小路・姜・川勝・榊原「新しい『日本のかたち』」(藤原書店)
オープンコンテントの百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
保坂正康「昭和史七つの謎」(講談社文庫)
歴史ぱびりよん 概説・太平洋戦争 終戦工作その1
マスコミが隠してきた日本の真実を暴露するまとめサイト GHQの占領政策と影響
吉本隆明「現在はどこにあるか」(新潮社)
関東学院大学 自然人間社会
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ゴードン・トーマス『インテリジェンス 闇の戦争?イギリス情報部が見た「世界の謀略」100年』(講談社)
有馬哲夫『CIAと戦後日本(平凡社新書)
日経BP SAFETY JAPAN 諜報機関のない日本はひたすら富を奪われていく
ベンジャミン・フルフォード「暴かれた『闇の支配者』の正体」(扶桑社)
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