55年体制の起源

前節では、戦前と戦後の連続性を人的な観点から考察してみましたが、次に経済・社会・産業の分野ではどうだったのかを検証すべきだと思います。そこで立花隆・野口悠紀雄による「1940年体制」説をご紹介しますと、
「それは『強制された自由貿易体制』のなかででき上がっていった大正から昭和にかけての古典的資本主義とは大きく異ったシステム」であり、
「この『国家社会主義的資本主義』は1940年前後に淵源をもち、戦後も、戦後改革にもかかわらず継続し、現在にいたっている」
というものです。榊原によれば、戦後の高度成長の中でこの「国家社会主義的資本主義」は、「大衆民主々義的」に変貌していったのであり、吉田茂以来の政治・行政システムを実質的に作り上げたのは田中角栄とその後継者たちであるとされます。そして、これは日本の近代化・産業化の最後の仕上げであり、
「明治維新以来の近代化・産業化が1940年代からの国家社会主義化を経て、大衆民主々義的社会主義-(中略)-に収斂したことを意味している。-(中略)-この日本型資本主義を、1940年=55年体制と呼ぶこともできるであろう。」
とされています。
因みに年表を繰ってみますと、昭和13年(1938年)に「国家総動員法」が公布され、以後農業や産業分野の国家管理が進められ、石炭・電力・鉄をはじめとする資源・エネルギーの統制や、物価統制などが着々と進められていったことがみてとれます。トヨタ・日産・東芝や日本航空などの設立もこの頃であり、また関門トンネルや新幹線の計画に関する記事もある位です。
磯田に言わせれば、
「『大東亜戦争』を『日本浪漫派』ふうの国酔思想に還元するのは一面的な見方にすぎず、むしろ『近代戦』としての『大東亜戦争』は、-(産業分野に関して言えば・筆者注)-地主制を崩壊の前夜にまで追いこみつつあった。それに最後の一撃を加えたのが占領軍による農地改革にほかならない。」
ということになります。また、1930年~1940年代の革新官僚たちが望んだ「国家社会主義的資本主義」の諸政策は、右寄りといわれる北一輝の「日本改造法案大綱」(大正12年=1923年)と重なり合う部分が多く、さらに「北一輝の思想の開明的な部分は、戦後改革の思想」とさえ一致しているとされています。やはり”戦後”は”戦前〟と水面下で連続していたのであり、一つの時代というものが何の脈略もなくどこかから飛び出して来ると思う方が奇異な発想なのだと申し上げられるでしょう。
ではこの1940年=55年体制といわれる政治・行政システムはどのようなものなのか、高度成長後の日本の問題点は何なのかを榊原にいわせると、
「いまの日本というのは非常に腐敗した大衆社会民主々義国家になっている-(中略)-これは制度的腐敗で-(中略)-腐敗の根本は何かというと、ほとんどの政策決定が自民党の部会でなされているからです」(この本は2002年刊・筆者注)。
「その自民党の部会と各官庁が闇で取り引きをして、そこに既得権益団体が入っているという、アイアントライアングルができています。しかもこれはきわめて大衆的なアイアントライアングルで、非常に関連している人の数が多い-(中略)-そういう意味で、きわめて大衆民主々義的であるけれども、きわめて腐敗しており、しかも法の枠外で、そういう利害が守られている。-(中略)-情報の開示がなされないまま、非常に規制、癒着、あるいはそこである種の汚職、制度的汚職が起こっている。-(中略)-これは役人がやればすぐ検察に捕まる話です。-(中略)-ところが部会の人がやっても捕まらない。」
ということになります。このシステムは上から大衆を押さえ込みながらも地域的利害とリンクされて、旧ソ連政治局が大衆民主々義的な衣をまとったようなものと規定されています。土建国家の形成過程で作られた閉鎖的な地方議会、-それも腐った地方金融と結びついた過剰な地方議員を抱えた-などの問題点も指摘されていますが、これは姜尚中の言葉でいえば、
「国家を『管制高地』としてそこを占拠する官と政とが相互にもたれ合いながら社会の資源やマンパワー、財やサービスの配分を決定するようなメカニズム-(中略)-ダワーは『スキャッパニーズ・モデル』(SCAPanese Model。SCAP=連合国最高指令管)という卓抜な表現で言い表わしていますが、実際米国の占領軍総司令部と日本との「合作」的なシステムとして戦後日本の経済・社会・政治の基本的なメカニズムが出来上がったと言ってもいいでしょう。とすれば-(中略)-戦後社会のなかの『アメリカ』との関係をどうするのか、という課題」
につながるということになるようです。

【参考文献】

「近代日本総合年表」第一版(岩波書店)
武者小路・姜・川勝・榊原「新しい『日本のかたち』」(藤原書店)
オープンコンテントの百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
保坂正康「昭和史七つの謎」(講談社文庫)
歴史ぱびりよん 概説・太平洋戦争 終戦工作その1
マスコミが隠してきた日本の真実を暴露するまとめサイト GHQの占領政策と影響
吉本隆明「現在はどこにあるか」(新潮社)
関東学院大学 自然人間社会
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